ランショットコラム
城西大学男子駅伝部 櫛部静二 監督

箱根駅伝での活躍を目指した選手に対して、いかに速く走れるかを追求し指導している城西大学男子駅伝部監督の櫛部静二です。
ランニングに関する情報を皆様へお届けします。
どうぞよろしくお願いします。

04 高地トレーニングのメリットとデメリット 後編

 前回は、高地トレーニングについてお話ししました。 世界でトップの選手の人たちや実業団選手が関心を持って行なっている高地トレーニングですが、高地環境に慣れるためにはかなりの期間を要することやデメリットもいくつかあります。今回は一般の方にも取り入れることができる短期的な高地トレーニングの方法をご紹介いたします。

 トップの選手らが行っているような高地環境で長期間滞在するトレーニング方法は、現実的に行うことは難しいでしょう。費用も掛かりますし逆に貧血や体調不良になる人も数多く見られるなど、デメリットが多いのが実際のところです。
 そこで、短期間の滞在でトレーニングを行う方法をお勧めします。これは、1970年ころから研究されているエビデンスがある方法です。その研究では、短期間の高地トレーニングを行い、 同じ期間ほど平地へ戻りトレーニングを行うような組み合わせで、繰り返し行います。この研究では高地での効果は平地に戻っても消失しないことや高地でのパフォーマンスは繰り返し行うことで促進されることが報告されました。その後も1300mから1600mなどの準高地において、3日から4日くらいの短期的な高地トレーニングだけでも効果ができるといった報告もあります。

 このような短期滞在でのトレーニングでは、具体的な効果として、ヘモグロビンのなど血液性状には増加や変化がみられないものの、血中乳酸濃度の低下が期待されます。乳酸は持久性の競技では少ないほうが競技には有利となるため 指標となる重要な因子の一つです。簡単に言えば疲れずに運動が維持できる能力、つまり持久力が高まります。

  また、近年ではテクノロジーの進化とともに人工的に低酸素環境を作り、トレッドミルやエアロバイクを使ってトレーニングする方法があり、最近では多くのスポーツジムでも取り入れています。低酸素環境下でのトレーニングも高地環境と重なる効果が期待できるのが理由です。これらは、高地トレーニングでのデメリットの一つである高地に長期間滞在すると大きなストレスを受けて疲労が蓄積して返って運動能力が下がるというようなことを回避できますし、一時的な低酸素環境でトレーニングをして、通常の生活による常酸素での疲労回復をし、トレーニングを安全、確実に進められるメリットがあります。上述した高地環境に対しての事前準備としても効果的で、身体に急激なストレスをかけないためにも良い方法です。

 日頃行なっているトレーニングに追加し、低酸素環境でのトレーニングや休暇を利用した3日から4日間の短期的な高地トレーニング実際に行なっていかがでしょうか。これから暑い時期に涼しい環境を求めて、自身の能力改善のためにも新しい刺激はとてもいいと思います。是非試してください。

04 高地トレーニングのメリットとデメリット 前編

 気温も上昇し、夏を思わせる日が続いていますが皆さん元気にお過ごしでしょうか。今夏も暑くなると予測が出ていることから、夏の計画をそろそろ考える時期かと思います。コロナ状況が落ち着けばの話ですが、暑さを避けて涼しい環境を求めて出かける方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、最近よく耳にする高地でのトレーニングについて少しお話ししましょう。

 1960年ローマオリンピックと1964年の東京オリンピックのマラソンにおいてエチオピアのアベベ・ビキラ選手が金メダルを獲得しました。その後1968年にはメキシコでオリンピックが行われ、同じエチオピアのマモ・ウォルデ選手が優勝を果たしました。その頃に注目されたのが高地トレーニングです。特に開催地のメキシコは標高が高く、これまでにない環境だったため日本では霧ヶ峰高原などの高地環境を使い対策を行っていたと言われています。現在においても世界の長距離界をリードしているのはエチオピアやケニア、ウガンダといった東アフリカに集中しています。彼らがトレーニングキャンプとして行っている場所の多くは、標高2000 M から2500 M くらいです。実はこの高さが長距離ランナーにとって強くなる秘訣で、スイートスポットと言われているのです。

 高地環境でトレーニングを行うとなぜパフォーマンスは向上するでしょうか。標高が高くなればなるほど大気中の気温や気圧が低下します。特に気圧の低下により酸素分圧も低下し、ケニアやエチオピアなどの選手らがトレーニングしている場所では、平地で換算すると酸素濃度は16%前後(平地では約21%)となります。私も現役時代にアメリカのコロラド州やエチオピアなどの高地に訪れたことがありますが、到着後すぐにはジョギングレベルでも苦しく感じました。わずか5%程度酸素濃度が低くなるだけで人の身体は大きな影響を受けるのです。
そうしたことから高地環境では身体に酸素を取り込むことが難しくなります。しかし、身体は刺激として受けたのちに適応する力を持っており、様々な生理反応を起こします。まず初めの反応として心拍数が高まります。安静時の心拍数は平地にいるよりも高くなります。これは酸素需要量の不足分に対して、心拍数を高めることによって補う反応です。また、酸素を運搬する役割のヘモグロビンを増やすために、産生を促すホルモンであるエリスロポエチンが分泌されます。それによって3週間ほどでヘモグロビンが増加、血漿量も増加し、造血する仕組みです。また、2,3―DPGというヘモグロビンと酸素との親和性の調節をしている物質が増加し、酸素を筋肉などの組織へ供給しやすくなること、毛細血管網が発達、ミトコンドリアの数が増えるなど、身体の様々なところでその状況に適応していき、結果的にパフォーマンスが向上するのです。

 しかし、高地環境においてはすべてがプラスに働くものではありません。高地環境に強い弱いがあり個人差があります。私の経験では標高2000M あたりでは、10人中1人は体調を崩す人が出るように思います。そのような環境に行く場合には体調管理はもちろん、事前に血液検査などを行ってヘモグロビンなどのチェックをおすすめします。また、トレーニングの強度の低下が考えられます。 気圧の関係でわずかに空気抵抗が下がりますが、それよりも酸素摂取が難しくなるため平地と比べてトレーニング強度は低下する傾向にあります。長期間その環境に滞在して造血できればいいのですが、一般の方には現実的ではありません。

 このようにして高地トレーニングにはメリット、デメリットがあります。では、多くの方でも安全にかつ効果的に行うためにはどうすればよいでしょうか。次回はその方法について解説いたします。

03 トレーニングによって得られる生理的変化について

 寒さも徐々に和らいできましたが、元気にトレーニングに励んでいるでしょうか。例年であればロードレース大会などのシーズンですが、今年はコロナの影響により多くの大会が中止となっていると思います。こんな時こそ鍛錬期と考えて、トレーニングに取り組んではいかがでしょうか。
 さて、今回は長距離走のトレーニングによって得られる生理的変化についてお話ししましょう。 身体の中では心臓、血液、筋肉など様々な部位で変化が現れます。漠然と走るよりも理解して行うと日々のトレーニングもやる気が高まること間違いなしです。

心拍出量の増加
 当然ですが、走っている時は、身体を動かすためのエネルギーを必要とします。 特に長距離走は短距離と違って強度が低いため、そのエネルギーは酸素を利用した供給方法を主としています。走行中に息が上がるのは、その酸素の利用と利用後の二酸化炭素を排出しているからです。速度が高まればより多くの酸素が必要となりますので、呼吸数を増やして酸素を肺に取り込んで血液へ送ります。それを筋肉へ送るために心臓を活発に働かせます。一連の機能の働きによって心拍数を増やしてエネルギーを供給しているのです。持久的なトレーニングを長期間行うと、これまでのよりも楽にできるようになるのは、心拍を重ねていくにつれて心筋が強化されて、1回での拍出量が増加して末梢へより多くの血液を送れるようになるからです。 心拍数が高いままだと心臓へ負担をかけるため軽減させる適応反応といえます。

血液量と赤血球の増加
 血液には、赤血球、白血球、血小板といった細胞成分が45%存在しますが、それらを除く成分は液体成分である血漿で構成されています。酸素は赤血球の中のヘモグロビンに結合して運ばれますが、この血漿の中にも酸素が含まれており、身体の機能維持や運動において必要な酸素供給をしています。持久的なトレーニングを継続していくと血液全体の量が増えていき、より多くの酸素を筋肉へ運べるようになります。

毛細血管密度の増加
 動脈と静脈をつなぐ毛細血管は、酸素、二酸化炭素、熱、栄養の交換が行われる部位です。 非常に細かな血管ですが、実は全身の血管の99パーセントを占めるほどです。トレーニングをしていくとその密度はさらに高まります。特に筋周囲の密度が高まることによって筋へ酸素を送るのが容易になり、エネルギー産生が増加します。すなわちそれによって持久力が向上する仕組みです。毛細血管密度と最大酸素摂取量(持久力の指標、酸素を取り込める最大値)の関係には正の相関関係があります。

ミトコンドリアの大きさと数の増加
 筋肉は大きく分けて速筋線維と遅筋線維の二種類の筋線維に大別されます。長距離選手にとって重要な筋肉は遅筋線維です。 その筋線維に多く存在する細胞の小器官であるミトコンドリアはエネルギー産生の工場と言われており、酸素を取り込んで脂肪や糖を分解してエネルギーを産生する役割を担っています。持久性のトレーニングによって遅筋線維のミトコンドリアのサイズが大きくなったり、数が増加していきます。競技力が高い人はこのミトコンドリアの数が多い傾向にあります。

 このように身体の中ではトレーニングでの刺激によって走るために重要な生理的変化が様々な形で起きていきます。 しかし、残念ながら養った能力はトレーニングを止めてしまうと また元の状態に戻ってしまいます。持久力の維持、向上には継続は欠かせません。 「継続は力なり」 を念頭にトレーニングを継続していきましょう。

02 クーリングダウンの重要性

 朝夕の気温が冷え込み本格的な冬が近づいてきました。長距離を走るには空気も乾燥し、呼吸がしやすく絶好の季節と言えるでしょう。質の高いトレーニングも行えますし、大会では自己ベストの更新が大いに期待できます。
 さて、今回は継続してトレーニングを行うためにもトレーニング後のクーリングダウンの重要性を改めて考えましょう。

急激な運動の停止は禁物
 激しい練習などの直後には呼吸が苦しいゆえに倒れ込む場面を多く見かけます。そのような状態になってしまう気持ちはよく理解できます。しかし、座り込みや地面に寝転んだままだと実は疲労回復が遅くなってしまうのはご存知でしょうか。また、立ちくらみや気分が悪くなるなど不具合を起こす原因にもなります。
 運動中は、全身へ血液を循環させて酸素を送る生理機能が働きます。心臓は勿論のこと足の筋肉の働きがポンプ作用となって循環の役割を担っています。しかし、急な運動の停止は、筋肉のその働きが止まり心臓へ戻るべき血液が足などの末梢で滞り、めまいなど体調不良を起こしてしまう危険性があるのです。全国のマラソン大会での緊急搬送などの多くは、ランニング中よりも走り終えた後のケースが圧倒的に多い理由は、このような急激な運動の停止にあると考えられます。

 激しい運動中において筋肉内では、エネルギー源である糖の利用が高まり、乳酸が産生されます。皆さんがよく耳にする乳酸が疲労物質と言われるのは、強度が高い運動を続けると乳酸が処理できずに蓄積してカリウムが漏れ出すなどの現象によって筋の収縮を妨げる性質を持っているからです。しかし、乳酸は別の働きを持っており、血液循環によって処理されて再びエネルギーとなる性質も持っているため、単に疲労物質と言えず、むしろ持久的な運動では大切なエネルギー源になるのです。
 また、実際のトレーニング中の場面においても同様です。インターバルやレペテイション(レースペースまたはそれ以上のペースと十分な休息を繰り返す)のトレーニングなどでは、リカバリー(回復時)でもジョギングを行うのは、血流によって乳酸の除去を促す目的があるからです。次の主運動のパフォーマンスを発揮するためにも重要と言えます。
 クーリングダウンは血液循環を促すような全身運動を選択し、強度の目安は、あまり高過ぎず、低過ぎないレベルです。ウォーキングよりも心地よい程度の軽いジョギングが良いでしょう。時間は10分~20分くらいをおすすめします。
 運動直後に筋肉を動かして血流を促すことは、乳酸を速やかに処理して再利用できるようになり、体調不良を起こさないなどの複数の効果をもたらします。トレーニング後には仲間とコニュミケーションを図るためにも是非行ってください。

01 トレーニングとたんぱく質

試合で自己ベストを達成するなど、最高の走りができたときの喜びや達成感は何事にも代えられないでしょう。一度覚えたその快感が忘れられないため、日々の苦しいトレーニングに耐えていると言っても過言ではないと思います。しかし、これまでにない負荷となり、身体は大きなダメージを負っていることを多くの人は忘れがちです。日頃の激しいトレーニングも含めて、強度が高い運動になればなるほど回復が必要です。そのためには、次のトレーニングを実施するまでの間に睡眠を含めた休養時間を取ること、十分な栄養をバランスよく摂取することは欠かせません。特に筋肉はたんぱく質を必要とし、短距離走などの力強さを求める運動だけでなく長距離走などの持久運動にも大変重要な役割を担います。

身体の組織とたんぱく質の関わり
 私たちの身体は、水分を除く約50%はたんぱく質でできていて、筋肉、血液、血管、ホルモン、神経、皮膚、髪、爪などはすべてたんぱく質によって形成されています。そのうち筋肉は約半分を占めています。筋肉を構成している筋細胞の中では、絶えずたんぱく質の合成と分解が行われています。筋肉量が変わらなくても、古いたんぱく質が分解され、新しいたんぱく質が合成されているのです。この合成の材料となるのはアミノ酸です。食事として摂取したたんぱく質は、胃や腸で最小単位のアミノ酸にまで分解され、腸壁から吸収され、血液によって全身の細胞に運ばれていきます。筋細胞でも、そのアミノ酸を材料として、筋肉のたんぱく質の合成が行われています。つまり、たんぱく質を含む食事の摂取は、筋肉量を維持させるのに重要な鍵になるのです。

運動によるたんぱく質の分解と合成
 運動によって筋細胞内ではたんぱく質の分解が進みますが、同時にそれを上回る合成が求められます。そのようなことから適切に休養を取り、トレーニングの継続によって筋肉は増加していきます。ところがトレーニングを行っても、十分なたんぱく質を摂取していなければ、材料となるアミノ酸が不足してしまい、筋肉では分解を上回る合成が進みません。せっかくトレーニングを行っても、その効果を得ることができないのです。更に運動直後は、合成速度が高くなっていることから、タイミングよくたんぱく質を摂取するのが理想とされています。つまり筋細胞でたんぱく質の合成が進むときに、材料となるアミノ酸が十分にある状態にしておく必要があるのです。

 しかし、実際の場面では、トレーニングが終了した直後に食事するのは、難しい場合が多いでしょう。また、トレーニングを終えてすぐに食事をしたとしても、たんぱく質がアミノ酸に分解され、吸収されるまでには時間がかかってしまうのです。こうした問題を解決するのが、アミノ酸が含まれたサプリメントです。すでにアミノ酸の形になっているため、吸収が非常に速いという特徴があります。トレーニング後すぐに摂取すると筋細胞でたんぱく質合成が高まる頃には、吸収されて細胞まで運ばれます。また、アミノ酸に糖質を加えたサプリメントならより効果的です。

 このようにして、日ごろからトレーニングに励むことはもちろんのこと、回復について考えて行動していくとパフォーマンス向上が期待できます。皆さんも取り組んではいかがでしょうか。